寛解とは
多くの患者様から「関節リウマチは治るのか」というご質問をいただきます。まず「治る」と一口に言いましても、定義はたくさん存在するため、簡単にこの質問に返すことは難しいのが現状です。「治る」という言葉を大きく分けると、2種類の定義があります。一つ目は「疾患が完全に消えた状態(①)」で、二つ目は「薬は使い続けているが、ほとんど疾患が消えたような状態(②)」です。①の状態は「完治」「根治」、②は「寛解」とよく表現されています。
残念ながら現代医学でも、関節リウマチの原因は明確に分かっていません。さらに、原因を完全に抑制させる治療法も出ていません。そのため①の状態を想定した質問ですと「治らない」という回答になります。
確かに30年前の頃と比較すれば、新しい関節リウマチの治療薬は増えていますし、治療技術もかなり進歩してはいます。しかし「根治」といえるまでの段階ではありません。もちろん患者様の中には、新規薬剤が効いて薬を飲まなくても良くなった方もいらっしゃいます。ごく少数ですが、自然治癒された患者様もいらっしゃいましたが、それでも原因は分かっていません。
もし、②「薬は使い続けているが、ほとんど疾患が消えたような状態」を想定しての質問でしたら、ほとんどの場合「治ります」と言えます。先述したように、医療技術は進歩し続けています。数々の治療薬が開発されたおかげで、多くの方が関節リウマチの存在を意識せずとも、治療を続けながら学業や仕事、趣味、スポーツなどに打ち込めるようになりました。
もちろん、「100%治った」まで断言することができません。全ての患者様に充実した毎日を過ごしていただきたいとも思っていますが、100%効く薬というものはまだ登場していません。また、薬を何種類か試したものの、なかなか「寛解」まで持ち込めない患者様も一定数いらっしゃいます。それでも、少しでも有効な薬がないか、探り続けることは大切です。今まで関節リウマチは「寛解すらできない」と思われていた疾患でした。しかし今は昔と違い、「寛解」を目標として目指せる疾患になりつつあります。
オーストリア人でリウマチ学を研究しているジョセフ・スモーレン教授は、2009年にて「Treat to Target(T2T)戦略」を唱えました。T2T戦略とは、「治療目標を決めて、その目標を目指して治療する」という戦略です。この戦略における治療目標は「寛解を目指すこと」と定められています。2010年に論文として発表されて以降、世界中でこの考えが普及されるようになりました。日本でもこの論文が翻訳され、実際の現場で行われるようになりました。またT2T戦略は、生物学的製剤の普及が大きなきっかけになったとも言われています。「たられば」ですが、生物学的製剤がまだ登場していなかった時に発表されていましたら、このT2T戦略はここまで広まっていないでしょう。効果に期待できる薬剤が出てきたことで、「寛解状態を目指すことはできる」といえるようになりました。
確かに、現代でも残念ながら関節リウマチの患者様全員が「寛解」まで達しているわけではありません。しかし、今までよりも寛解に近い状態へ持ちこむことも大切です。何も治療を受けない頃と比べて、明らかにコンディションも良くなります。まずは周囲の方から「前より良くなったね!」と言われる状態を目指しましょう。当院は患者様がそういった状態まで持っていけるよう、精一杯サポートして参ります。一人で抱え込まず、当院までお気軽にご相談ください。
3種類の「寛解」に分かれています
「寛解」は、「臨床的寛解」「構造的寛解」「機能的寛解」に分かれています。まずは「臨床的寛解」を目指してみましょう。そこから「構造的寛解」「機能的寛解」へ、少しずつ段階を上げていきましょう。
「臨床的寛解」
手足の関節痛や腫れがなく、関節の炎症が消えている状態です。診察内容や血中CRP濃度などを考慮してから、現在の状態を評価します。
「構造的寛解」
新しい骨の破壊が見られず、かつ関節破壊の進行も抑えられている状態です。X線検査などを通してから評価します。
「機能的寛解」
日常でよく行う動作がスムーズにできる状態です。社会的活動(仕事など)も問題なく進められているか、心理状態が良好であるかも確認します。HAQテストなどのセルフチェックシートで評価します。
ドラッグフリー寛解
先述したように「寛解」は、「薬を使い続けているが日常生活を問題なく過ごせている状態」のことを指します。長期間「寛解状態」を保てられている患者様には、投薬をいったん止めることができるか、一度チャレンジしていただきます。もし、休薬したまま寛解状態を保てられている状態になりましたら、「ドラッグフリー寛解」と評価できます。「ドラッグフリー寛解」とは、患者様全員が求めている段階で、薬なしでも快適に過ごせる状態です。「この状態を目指したい」と治療に励む方もいらっしゃるかもしれませんが、残念なことに、ドラッグフリー寛解まで持ち込める方はごく僅かです。 かなりの初期段階から、生物製剤を含んだ強い治療法を受けた場合は、ドラッグフリー寛解になる可能性があります。しかし発症時期から5~10年以上経過した状態から、この状態を目指すことはほとんど不可能とされています。 もちろん、寛解状態にいる患者様の薬を減らしたり、使う間隔(例:1カ月に1粒飲んでいた薬を、2ヵ月に1粒飲むようにする)を長くしたりすることは可能です。こういった減量は現実的に可能な方法ですが、完全に休止することは極めて困難です。いったん止めてから2~3ヵ月後に、関節炎が再発して苦しい思いをされる患者様も少なくありません。「寛解→減薬→休薬」という流れで行いますが「休薬」の難易度は極めて高いのです。
また「寛解」まで達成した方の中には、勝手に服用を止めてしまう患者様もいらっしゃいます。これはあまり推奨されない方法ですし、再発した際、今まで効いていた薬が効かなくなる恐れもあります。
痛くなった時、または痛くなりそうな時のみ治療薬を使う「オンデマンド治療」を行う方もいらっしゃいますが、この方法も避けていただきたいです。リウマチ治療薬はかかりつけの先生と話し合いながら、量や頻度を調整する必要があります。ご自身の判断で薬を止めたりするのは止めましょう。
また先述した「T2T戦略」の論文に載っていた内容は、10年以上前の記録とはいえ、今でも十分通用する内容となっています。「患者様と医師側が合意してから治療を始める」「できるだけ早く臨床的寛解を目指し、その状態をキープする」「少なくとも3ヶ月に一回の頻度で、寛解になっているかどうかを評価する」「寛解になっていない場合は治療方針を見直す」「寛解になった後でも、その状態をキープするために適切な治療を提供し続ける」「常に患者様と医師は目標を共有し合う」など、現代のリウマチ治療においても心がけたい内容が記載されています。これらの戦略を意識したうえで寛解を目指し、皆様が快適な毎日を過ごしていただければと思っています。