リウマチ性多発筋痛症とは

リウマチ性多発筋痛症
(PMR:Polymyalgia Rheumatica)とは

PMRとは、肩の周りや太もも、お尻が急に痛くなる疾患です。50歳以上の方が発症し、痛みだけでなく、こわばり(朝に起こる)や体重減少、全身のだるさなどを伴うことがあります。また、不明熱の原因となっている事もあります。ある日急に発症するケースが多く、受診された患者様の中には「この日に発症した」とハッキリ答えていただく方もいらっしゃいます。少しずつ発症する関節リウマチとは異なります。血液検査でCRPの数値が高く出たり、血沈(けっちん)の亢進などの炎症反応が現れたりしますが、レントゲンを受けても異常が発見されません。しかし、関節エコーで肩関節の滑液包炎(かつえきほうえん)が発見されることがあります。

また疾患名に「リウマチ」と付いていますが、「関節リウマチ」とは全く違います。「両腕が上がらない」「椅子から立ち上がるのが大変」と訴えるケースがほとんどです。ステロイドが有効とされており、関節リウマチと違い骨の破壊・変形はみられません。後に説明する「巨細胞性動脈炎」を併発していない限りは、長期の予後が良くなる傾向があります。ただし、治療を中断した後の再燃・再発も少なくありません。治療を長く続ける必要がある方も多いので、簡単に治る疾患とも言い切れません。ゆっくり焦らずに、治療に向き合っていきましょう。

男女比・人口

男女比は1:2~1:3で女性に多く、発症年齢のピークは70~80歳とされています。他の人にうつる疾患ではありません。アメリカでは、人口10万人のうち18.7~68.3 人の発症者がおり、50歳以上の人口10万人にのうち、1年間で50人ほどが発症すると報告されています。また、一生涯の中で女性が2.4%、男性が1.7%の確率で発症すると言う海外の報告も存在します。さらに、北欧での患者数はそれよりも多いと言われています。
このように、PMRは欧米では、関節リウマチに次いで患者数が多い疾患として知られているのです。国内で報告された正確なデータは少ないのですが、50歳以上の方10万人につき、約1.5人が発症すると言われています。これは、アメリカの約1/10ですので、日本国内での患者数は欧米よりも少ないことが分かります。ただし、近年の日本では一気に高齢化が進んでいるため、患者数も比例して多くなるのではないかと懸念されています。

巨細胞性動脈炎と併発することも

欧米ではPMR患者の5~30%に巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)が、そして巨細胞性動脈炎患者の約50%にPMRの併発が見られたと報告されています。一昔前まで巨細胞性動脈炎はかなり珍しい疾患と思われていましたが、技術の進歩や高齢化などによって、患者様の数は増えつつあります。感染症などの環境要因が発症のトリガーとなるのではないかと考えられてきましたが、はっきりとした原因は分かっていません。

診断について

診断は、疾患特異的な検査はなく比較的困難です。特に、高齢の患者様に多い「関節リウマチ」と「PMR」を見極めるのは、かなり難しいとされています。初期段階では「関節リウマチかな?」と思って受診された患者様の中には、途中からPMRの診断がついた方もいらっしゃいます。
そして巨細胞性動脈炎を併発していないかどうかを、チェックすることも重要です。特に、頭痛や急激な視力低下などがあった場合は注意が必要で、その場合は必要に応じて高度医療機関へご紹介することもあります。またPMRは関節リウマチと違い、関節の破壊・変型が起こることは全くありません。レントゲン検査で「骨びらん(骨の欠損像)」が発見できた場合はPMRではなく「関節リウマチ」を疑った方が良いでしょう。加えて、PMRの患者様が血液検査を受けると、リウマトイド因子(RF)が陰性だと判定されます。

診断基準

欧米での診断基準

  • 首や肩、骨盤周囲のうち2つの部位に、両側性の痛みやこわばりが起こっている。それが1ヶ月以上も治らない
  • 朝になると、手が1時間以上こわばり続けている
  • プレドニゾロン(20mg以下)を飲むと一気に改善される
  • その他のリウマチ疾患である可能性が極めて低い
  • 現在50歳以上である
  • 血沈が40mm以上だった

上記の症状に全て当てはまっているとPMRと診断されます。(Healey, 1984)

治療について

PMRは、ステロイドが著効する病気です。ステロイドを服用して数日で症状の改善がみられます。ステロイドの反応性をみて、診断が確定します。しかし、急に飲む量を減らしたり休薬したりすると悪化する恐れがあるので、医師の指示に従って服用を続けて下さい。症状の度合いや体重、持病(高血圧・糖尿病・骨粗鬆症・緑内障など、ステロイド投与で悪化する疾患がないか)などを踏まえて、初回に飲むステロイドの量を調整します。ほとんどの患者様には、10~20 mg/1日のプレドニゾロン(プレドニン®)を処方します。なお巨細胞性動脈炎を併発している場合は、入院しながら、30~60mg/1日ぐらいの量のステロイドを服用していただきます。

初期に処方したステロイドの効果がきちんと発揮できた場合は、2~3週間後に1mg~2.5mgずつ処方します。それ以降は4~8週間ごとに1mg/1日ずつ減らしていくケースがほとんどです。ステロイドの投与中止を目指しますが、残念ながら症状の再発で減量または中止が難しく、少量のステロイド継続が必要となる場合があります。副作用を考慮すると、ステロイドの処方量を少しでも減らすことが重要とされていますが、減量はそう簡単なものではありません。減量が難しい場合は、関節リウマチに対して使用されている薬も一緒に使いながら、ステロイドの減量にチャレンジしていきます。初回の治療が終わった後の10年以内に、約10%の患者様が再発すると報告されているように、治療が完全に終わった後でも、肩周りの痛みに悩む方もいらっしゃいます。そういったお悩みがありましたら、ぜひ当院へご相談ください。