膠原病とは
ヒトの身体には、外から侵入してきた病原体などの異物を攻撃し、体外へ追い出す機能が備わっています。このシステムが「免疫」です。免疫の機能は、自身の身体に向かず、体外から侵入した異物にのみ反応します。しかし、この働きが正常に機能できなくなり、自身にとって必要な組織まで攻撃してしまう疾患があります。これが「自己免疫疾患」です。
皮膚や関節など、膠原繊維が豊富なところに炎症が起こることから、「膠原病(こうげんびょう)」と呼ばれています。
「膠原病」の語源について
膠原病(collagen disease)は、1942年、アメリカの病理学者であるクレンペラーが、結合組織(臓器や組織を繋ぐ成分)や血管など、膠原繊維を含んだ組織にしかみられない病理学的変化(フィブリノイド変性)が起こる疾患群として名付けられました。
膠原病は「自己免疫現象(免疫細胞や抗体がご自身の身体を異物だとみなし、攻撃してしまう仕組み)」が深く関わっている疾患です。膠原病には「自己免疫疾患」としての一面もあるのですが、それだけではありません。膠原病の患者様の多くには「リウマチ症状(関節痛など)」があることから、「リウマチ性疾患」の一面も持っています。
関節リウマチは、関節滑膜にしか起こらない病理学的変化(フィブリノイド変性)を起こす「膠原病」であり、その内部では「自己免疫疾患」にしか起こらない自己免疫現象が所持ています。このことから、関節炎の症状を引き起こす「リウマチ性疾患」でもあるとも言えるのです。
大学病院などの医療機関で「リウマチ内科」「膠原病内科」「免疫内科」など様々な診療科名が付けられているのは、先述した内容が絡んでいるためです。
膠原病の共通した特徴
全部の膠原病に当てはまるわけではありませんが、膠原病の特徴がだいたい下記の通りになります。
- 原因が分かっていない(一部例外あり)
- 根治させる方法が分かっていない
- 関節症状(リウマチ症状)を伴っているケースが多い
- 女性の患者数が多い
- 全体的に見ると患者数は少ない
- 慢性的に続く炎症性疾患
- 自己免疫の機序が関わっている(自己免疫疾患)
- 特有の病理組織像(フィブリノイド変性)が起こる
- 皮膚や肺、心臓、関節、神経、血液などの障害が起こる
主な膠原病疾患
全身性エリテマトーデス
顔や手指などの皮膚に赤いポツポツができるのに加えて、腎炎や胸膜炎なども伴う疾患です。関節痛だけでなく、手指の変形(Jaccoud関節)まで起こることがあるため。関節リウマチと併発していないかなどを診るのが難しいとされています。男女比は1:9で女性が圧倒的に多く、発症ピークの年齢は20~40歳までです。これは、関節リウマチの患者の年齢層より若めです。全患者数のうち20代が40%で、10代と30代のそれぞれが25%と報告されています。一昔前までは5年間のうち2人に1人が命を落としてしまうという疾患でしたが、近年ではステロイドや免疫抑制剤による治療のおかげで、5年生存率が90%まで達成できるようになりました。そのおかげで、多くの患者様が学業や仕事を続けながら、治療も継続できています。
発症する原因は残念ながら分かっていません。ただし、免疫異常によって生成されたDNA(遺伝子の構成要素)に反応する自己抗体と、DNAが結びつくことで作られた免疫複合体が、皮膚や腎臓に溜まって血管炎や腎炎を引き起こすのではないかという報告がされています。また、怪我や紫外線、ウイルス感染、外科手術、妊娠・出産、薬の副作用などの環境的因子に加えて、患者様が元々持っていた遺伝的素因が繋がり合うことで、免疫異常が起こり、全身性エリテマトーデスになるのではないかと考えられています。
まずは、早期発見・早期治療が重要です。近年では、今まで薬害事件によって使用できなかった「ヒドロキシクロロキン(プラケニル©︎)」が国内でも使用できるようになりました。免疫抑制剤とステロイドをメインに処方してきた日本は、やっと世界基準に追いついたことが分かります。
主な症状
- 全身がだるく疲れやすい、熱がある
38度以上の高熱が50%以上の患者様に見られます。原因が分かっていない発熱を引き起こす疾患として、医師国家試験では度々出題されます。
- 日光を浴びるとブツブツができる
(日光過敏症)
両頬や額に、赤いブツブツが発生します。このブツブツは日光に当たると悪化します。
口の周りにはできず、鼻をまたいで発生します。
- 手、指、足、耳たぶに赤いブツブツがある
手指がべったりと、絵の具を塗ったように赤くなります。
- 髪の毛が抜ける・髪の毛が細くなり、
折れやすくなる
- 関節が痛む
90%ぐらいの割合で、関節痛や関節炎が起こります。そのため関節リウマチとしっかり見極めないといけません。関節リウマチの可能性がある場合は、全身性エリテマトーデスなどの膠原病を除外してから診断をつける必要があります。
- 口内炎ができやすくなる
一般的な口内炎とは違い、痛みを伴わない口内炎ができます。痛みがないので自覚されない方もいらっしゃいます。頭痛やけいれんをはじめ、中枢神経の病変によるせん妄や統合失調症のような精神障害、うつ病のような精神障害が起こることもあります。
強皮症
皮膚の硬化が目立つ疾患です。手足の指先、顔から起こり始めます。硬化は左右対称に起こり、腕から身体へ拡がっていきます。初期では浮腫状に、手指の全体が腫れて少しずつ板状に硬化していきます。硬化すると皮膚がつまみにくくなりますが、時間の経過と共に皮膚が薄くなるため、つまみやすさも元通りになります。
主な症状
- レイノー現象
98%の方にみられる症状です。気温が低い冬の朝に、冷たい水道水を手の指にかけると指が真っ白になります。夏場でも、クーラーの風によって白くなるケースがあります。重症化すると、手指の先端の皮膚に、潰瘍や壊疽(えそ)ができるようになります
- 空咳や息切れ
線維症によって、咳や息切れを起こすことがあります。レイノー現象や手指の皮膚硬化を起こっている場合は、肺線維症まで隠れているかもしれません。また肺高血圧を伴うこともあります。
- 高血圧が続く
急に血圧が高くなります。そのまま一気に腎不全になる「腎クリーゼ」を発症させることもあります。
- 関節の痛み
関節痛やこわばり感が起こることもあります。この場合は、関節リウマチと見分ける必要があります。強皮症に効く治療法はまだ確立されていませんので、対症療法が選択されます。合併症がないか、慎重に様子を見ながら投与量などを決めていきます。
CREST症候群
強皮症に含まれる疾患です。レイノー現象や食道の運動機能低下(食べた物が途中でつかえやすくなる)、手指の皮膚硬化、毛細血管の拡張、石灰沈着などが起こります。
強皮症で起こる肺線維症はほとんどみられません。また50〜90%の患者様が、セントロメア抗体で陽性と判定されます。
多発性筋炎/皮膚筋炎
手足(特に上腕や太もも)に、筋力低下が左右対称に起こってしまう疾患です。中には、上腕や太ももを掴んだ時に、筋肉の痛みが起こる「筋炎症状」を特徴としています。筋肉の症状だけでなく皮膚症状も伴うと、「皮膚筋炎」になります。上まぶたが薄い紫色になり、若干むくんだような見た目になる「ヘリオトロープ疹(全身性エリテマトーデスの皮疹と同じように紫外線を浴びると悪化する)」や、ボロボロとフケみたいな屑が落ちる、赤い湿疹が手指の関節の後ろ側に生じる「ゴットロン兆候」が起こります。関節炎やレイノー現象が起こることもありますが、軽度で済む傾向が強いです。
5~14歳の子供と、35~64歳の成人に多く見られ、男女比(成人)は1:2.6と女性に多くみられます。小児期ですと、男女比に差はあまりありません。子供の場合は皮膚症状が目立ち、治療を受けなくても予後が良いケースも多くあります。しかし、血管炎による消化管潰瘍によって、出血や消化管の穿孔が起こることもあるため油断は禁物です。
間質性肺炎を併発することもあり、その後に筋炎症状を引き起こす傾向があります。呼吸器内科からの相談も受けることが多い疾患でもあります。また、悪性腫瘍ができたのをきっかけに、皮膚筋炎のような症状が現れることもあります。その場合は全身の検査を受けていただきます。特に治療が上手く進まない場合は、悪性腫瘍が隠れているかもしれません。実際に多発性筋炎や皮膚筋炎の7~30%に、悪性腫瘍が発生していると報告されており、診断から1~2年以内に発見されるケースも珍しくありません。全身のあらゆるところに発生するため、婦人科や消化器内科、呼吸器内科など多くの診療科との連携が必要になります。そのため、高度医療機関にて、正確な診断と治療が必須です。
初期ですと筋肉の脱力などの症状が起こるのですが、なかなか自覚できません。実際に、関節症状しか気付かない患者様も多くいらっしゃいます。極めて稀な疾患ですが、関節リウマチと見分ける必要もあります。また、筋力低下や筋痛は、あらゆる疾患や薬の副作用でも生じるごくありふれた症状ですので、組織検査などの病理診断をはじめ、全身の状態をみる除外診断や、服薬歴などを丁寧にヒヤリングすることが必要です。
筋炎の治療ではステロイドが用いられますが、薬を減らす時に悪化することも少なくありません。慎重に減量を続けながら、ステロイドパルス療法や免疫抑制剤の併用なども検討します。
主な症状
- 筋力低下、筋痛
腕や足、首などの筋力が下がりやすいです。また喉に症状が起こることもあります。
- 嚥下困難
食べ物が飲み込みにくい、むせやすい症状が起こります。
- 皮膚症状
顔や指、肘、膝に、赤いブツブツができます。ブツブツはかゆみを伴っていることが多く、初期はかゆみしか現れない方もいらっしゃいます。
- 間質性肺炎
細菌・ウイルスによって発症する肺炎とは違い、免疫が肺を攻撃することで発症する疾患です。喉の痛みや痰などがないのに咳が何度も出る、運動すると息切れしやすいといった症状が特徴的です。
混合性結合組織病/Overlap症候群
患者様によっては、2つ以上の膠原病が同時に起こることもあります。先述した全身性エリテマトーデスや強皮症、多発性筋炎(または皮膚筋炎)の3つの疾患は併発しやすいため、「定型的オーバーラップ症候群」とも呼ばれています。
それに近い病態で、かつ臨床的に全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎の症状を部分的に引き起こしている、かつU1RNP抗体が陽性と判定された状態を「混合性結合組織病」といいます。混合性結合組織病の診断がついたことで、厚生労働省からの特定疾患医療を受給している方は8658人いらっしゃいます(2008年現在)。男女比は1:13~16と女性が極めて多く、発症のピークは30~40代とされています。しかし、子どもも高齢者も発症し得る疾患です。
手と手指がソーセージのように腫れるという症状がよくみられます。また強皮症とは異なり、発症期間中全ての日に症状が起こっています。また、肺高血圧症の合併率は、他の膠原病よりも多めです。
寒い朝などで手指が白くなる「レイノー現象」が、患者様の多くにみられます。手指と手の腫れも、全経過にわたって現れます。
発熱や顔面が赤くなる、胸に水が溜まる(漿膜炎:しょうまくえん)、関節炎という、全身性エリテマトーデスと似た症状が何度も起こるため、関節リウマチと見分けるのが難しい傾向にあります。また、手指の皮膚硬化や肺線維症、食道の蠕動機能低下といった、強皮症と似た症状も起こります。肘を超えて、腕全体や体幹の皮膚が硬くなることはほとんどありません。他にも、筋力低下や筋肉痛とった皮膚禁煙と似た症状も見られます。これらは、上腕や太ももによく見られるものですが、重度の筋力低下などはそう起こりません。肺高血圧を合併する方が4~10%もおられ、動悸や息切れ、胸の痛みを生じることがあります。
主な症状
- 手指の腫脹(ソーセージ様腫脹)
手指から手の背にかけての部分が腫れます。「ソーセージ様腫脹」とも呼ばれており、指輪が入りにくくなるという自覚書状を伴います。80〜90%の患者様に多く見られ、MCTD特有の症状でもあります。
- レイノー現象
寒さによる刺激や精神的なストレスによって血管が縮み、手指が青白くなる状態です。その後は暗い紫色→紅色と変化し、元の肌色に戻ります。